インサイド・ジャンクション

第9週 打切

9月1日(月) 新学期

今、途方にくれている……

でもこれは間違いなく書き記しておかなければならない事だ
まさか……本当に……
アイツが関わっていたとは……



今日学校に行ってまず耳に入った情報が

「担任が行方不明」
になっているということだった
聞いて心臓が飛び出ると思った

まさかエルの担任に続いて俺の担任までも……
無関係だと信じようと思った

そうだ、世の中やっぱり狭くない

その代理で担任になった先生は
どうやら今回臨時に採用された講師らしい
あー、名前はちょっと聞きそびれたな
でも脱色されたちょっと面白い髪型といい端正な顔立ちといい
美人と呼べるような女の講師だった

しかし始業式のときの「ズレてます」発言はインパクトあった(゜∀゜;)

前の担任ぐらいはっちゃけた先生かもしれない
その時はそう思っていた



その日は何故かリーガレットが欠席

普段なら、宿題終わってなくてズル休みか~?
などと思って気にしないもんだが
その時は心にちょっと引っかかるものがあった

何故なら
昨日の「思い浮かべたクラスメイト」が
リーガレットだったから……

無関係だ、関係あるはずが無い

そう思っていたが
下校するついでにリーガレットの家を訪ねてみる事にしようと思った
夏休み中は後半全く連絡を取り合ってなかった
気になる点はあったんだ



とにかく俺はリーガレットの家に行った

だが呼び鈴を何度押しても反応は無い
ドアを叩いても無反応、案の定施錠されていた
しょうがないなと思いつつ引き返そうと思ったら

新担任の女講師がそこに立っていた

「見舞いとかすか?」
と聞いてみるとそうねと返された
「今誰も家の中いませんよ?
多分家族旅行にでも行ってるんじゃないっすかねぇ」
そう言って俺は帰ろうと思った

その時だった

「キアニス君
あなたは何も知らないの?」

そう告げられて俺は立ち止まった
……何も知らない?


「リーガレット君のお父さん……



夏休みに入ってすぐ亡くなられたのよ」



身体に電流が走るのを感じた
頭の中で全てが繋がった気がした

家に帰ってすぐにエルの日記を読み直した

7月25日……
その少年の父親の火葬が行なわれた

夏休み初頭のリーガレットの親父の逝去

そして日記の記述とリーガレットの一致



間違い無い……


エルにカードを渡したのは正真正銘リーガレット!!

……ふう
マジかよ……こんなところでアイツが出てくるとは……

全く……世の中狭いもんだな

エルが探そうとしていた人物は俺のクラスメイトだった
俺が突き止めることが出来れば解決するのか?
エルは戻ってくるんじゃないのか?


ていうかアイツ今なにやってるんだ?
学校休んだりして……

明日学校に来たら問い詰めなくてはいけない
大丈夫だ、他の奴には何も言わない

……アイツが明日ちゃんと学校来ればの話だが

9月2日(火) 巨乳

昼休み辺りに判明した事がある

ハイウィスがなんか巨乳になってた

別に女の胸の大きさなんて気にしてないが
ハイウィスのアレは常識を超えた大きさだった
……ような気がする

まぁ確かにそれなりにおっぱいあったほうが
そりゃなんか嬉しいわけだけど
アイツのは凄かったな……

昼のホームルームのときでも
あの新担任が釘付けになるほどの大きさだ

案の定ハイウィスは先生に呼び出し食らったようだ
……やっぱあの大きさは見逃せないよな(´`;)

ああ、あの新担任の名前
トビーに聞いて思い出した
「フェルシー・アリスタイン」って名前らしい
なんだかファンシーな名前だなぁ……



しかし予想はしていた通り
リーガレットは今日も学校の方に顔を出すことは無かった

エルを人殺しにまで追いやった危険なブツを持ってるんだ
良からぬ事情だって起こってるに違いない

連絡が取れればいいが
あいにくリーガレットは携帯なんか持ってない
そういえばエルもだ
まぁあいつはまだ中学生だから仕方ないってのもあるけど……


だとしたら今俺が出来る事って何だ?
……わからない

とりあえず警察から何も連絡が無いってのが
良くも悪くも救われてるのかもしれないな……

9月3日(水) 安心

なんか新担任が消えて前の担任が戻ってきた
レイナ先生、
あまりよく覚えて無いとか言ってたけど
何せあの先生だからな……
ちょっと腑に落ちない部分がある

そして何も言わずに去っていったアリスタイン先生
まぁあのサバサバした感じの人だから
あの人らしいっちゃあの人らしいかもしれないが……

だけどアイツは関係ないよな
ハイウィスが先生と揃って消えたというかただの欠席というか……

巨乳のこと怒られてそんなにショックだったんか?

だけどまぁ何よりレイナ先生帰ってきて
またホームルームが明るくなりそうで何よりだ

エルの担任のこともあったから 本当に先生が無事でよかったと思う

ここまで心底安心したのは久しぶりだ

9月4日(木) 無関係

連日ハイウィスの変化が妙に気になるのは
今までのハイウィスとのわずかなギャップからだと思う

今日、少し遅刻してきたハイウィスは
一昨日見たような巨乳ではなかった

だけど、今日のアイツは
いろいろと以前とは違うような妙に雰囲気をまとっていた、ように見えた

何だかハッキリとした言動が目立った感じ
前のアイツは引っ込み思案というか暗い感じのヤツで
時々何かしゃべるような事があっても
いつもどもったような喋り方しか出来ないヤツだったが
今日は妙にハッキリした喋り方をしていて
まるで別人のようだった……気がした

何だコイツ
夏休みの間に精神的なカウンセラーでもしたのか?
って感じの話が俺含めてクラスで話題になった

女子が何人かハイウィスをおちょくりに言ったみたいだが
一蹴された感じだった
そいつが何を話していたのかは詳しく聞いてない


だけど俺には妙に腑に落ちない感じがあった

夏休みにそういう感じのカウンセラーをしたなら
話し方だけではなく、人付き合い的な感じでも変化があるものかと思ったが
そういった変化は無く、休み時間中もひとり座って本を読んでいるようだった
それだけなら以前のアイツと何ら変わりないが

現にアイツは変わっている

何というか……雰囲気そのものが
ただの暗いヤツからピリピリした怖い感じの雰囲気になった感じ

俺はありえないと心の中で否定しつつも
どうしてもサモンカードとの関係に
ついつい絡めつけたくなってしまっていた

……俺も精神的に落ち着かなくなってきてるな

ハイウィスが、失踪してしまったエルと、何となく重なって見えてしまう

引きこもってからのエルと、以前のハイウィスの雰囲気も……
途中で人が変わってしまったようにな雰囲気をまとっていることも……



落ち着け俺
早まるな俺

ハイウィスはどう見ても無関係だ

9月5日(金) 証言

新学期が始まって最初の週が終わろうとしているが
リーガレットが全く顔を出さない事に、
みんな心配しだしている

先生にも聞いてみたけど
全く連絡が入ってないらしい
クラスの誰もがリーガレットからの連絡を誰も受けていない
家に問い合わせても電話も何も繋がらないし
今日も家に言ってみたが施錠されていてドアは全く開かないし
中には誰も入ってない

……だけど1人だけ
夏休みの後半にリーガレットの姿を見たヤツが居た

ハイウィスだった

アイツは皆が聞いてる中で
どもる様子も無く堂々と調子良い口調で話した

ハイウィスがリーガレットを見かけたのは
先月の18日の夜
月曜日の少年VIPの発売日に買った帰りだったのでよく覚えているらしい
よくよく思い出せば
俺自身がハイウィスを見かけたのもその日の夜だ

あの日ハイウィスは公園にリーガレットが居るのを目撃したらしい
リーガレットはそこで誰か、知らない人間と話をしながら
どこかに消えていったらしい……

これがハイウィスの証言だった

よくちゃんと言ってくれた
って気もするが、さすがにそれ以上俺にはどうしようもない

エルのように捜索願は出されたわけでは無さそうだ
家族ぐるみで失踪……?
リーガレットの家族はアリスタイン先生の話が本当だとすれば
お姉さんが1人居るってことになるけど……

そういやお姉さんって見たことないよな……
一緒に消えたのか?

9月6日(土) 釣り

昨日から思うところがあって
期待は出来ないと思いつつもハイウィスに電話を入れてみた

電話に出たハイウィスの声は昨日一昨日の調子のままだった
……本当に別人のようだと思いつつもすぐに本題に入った

「昨日話したことについてだけど
リーガレットがその誰かと話をしていた内容は覚えてないか?」

エルにカードを渡したのはリーガレット、それは間違い無い
だったら公園で誰かと話してた内容も、
カードのことである可能性も捨てきれないと思った
だからと言ってそんな内容ハイウィスがしっかり聞いてたらそれはそれで重大問題だが……

だがハイウィスの答えは「聞こえなかった」だった

残念と思うと同時に安心した
だが、状況は変わらないも同じ
仕方ないといえば仕方ないかもしれないが……

聞きたいことはそれだけだったので
電話を切ろうと思ったが、
ハイウィスの変化についても気になり
とっさに一つの質問をしていた



「お前もプッシュオンなのか?」



本当にどうでもいい質問だと思って言った
「何? それ」
って言われるのがオチだと

そう願っていたんだけどな





「明日会いましょう」

少し長い沈黙の後にハイウィスは答えた

頭の中でものすごい速さで思考回路が活動した

ハイウィス……こいつ
サモンカード知ってやがる!!

「ああ、それじゃあ明日の10時に学校な」
そう約束を取り付けた



何だコレ……
今俺は何がしたかったんだ?
っていうような突発的な質問だったが……まさか

見事に釣れたなんて


だが、これで確定したような気がした
ハイウィスはリーガレットの失踪に何らかの関わりを持っている可能性が高い
少なくとも、
公園でリーガレットが話していた内容が聞こえなかったのは嘘
……もしくはその話自体が嘘

どちらにしろ、明日アイツに問いただせば分かる話

ハイウィスが何をやったのかはわからないが……
どんな形でかかわりがあるのかもわからないが



場合によっては、
俺は許さないかもしれない

9月7日(日) インサイド・ジャンクション

高校前に午前10時
アイツは約束どおりに到着した
以前本屋で会ったときと同じような色味の服装
私服のバリエーションの少なさを感じ取った

「キアニス君……あなたは知ってるのね?」

ハイウィスの言わんとすることはすぐにわかった
「ああ、知ってる」

「それじゃあ率直に聞くわキアニス君……



あなたが持ってるのは
何のサモンカード?」

きた……
俺はそう感じ取った

「あいにく残念だが俺はそんなモンは持ってねぇよ
だが……

お前は持ってるんだな? サモンカード」


すでに確信はしている
そして今までの言動や口調の明らかな違いから見ても
ハイウィスではなく、「プッシュオン」したセイントが意識を操っている事も……


ハイウィス……いや、
ハイウィスの皮を被っているそいつは
じっと俺をにらみつけた


「最初はただの違和感だったが
今ここに来る約束取り付けた時点で確信するしかなかった」



そう言った瞬間――
ヤツは俺に組みかかろうとした

俺はとっさにヤツの伸ばしてきた腕の手首を掴んだ
だがその時ヤツの両手に異様な雰囲気を感じて
手を離して後ろに飛び退いた


それと同時ぐらいに
バリバリッという何かが裂けるような音と
ヤツの両手あたりの空気が歪んで見えた

「――チッ」

微かにだがヤツは確実にそう呟いた



……身の危険を感じた
今のが……今のがサモンカードの能力だろう
エルに憑いていた野郎も持っていたらしい……
『付加能力』ってヤツなのか今のは!!
だけどエルに憑いてたヤツと違って
……今のはなんだったんだ?
特撮なんかでしか見ないような波動砲とでも言うのがいいような
そんなもんが手から出やがった
……もう確信するしかない
目の前にいるのはハイウィスなんかじゃない!
ハイウィスの皮を被った全くの別人……
『セイント』ってヤツだ!!
しかしヤバイ技使いやがる……
俺に、こいつをどうにかできるのか……!?
……!!

一瞬で脳内で理解しようとしていろいろなものが駆け巡った

サモンカードは本来世の中に知れ渡ってはいけないもの
俺みたいな一般人が知るべきではないモノだということ
そう、エルの日記には書いてあった

だが何故今まで誰にも知られることが無かったのか……


答えは簡単だ
知ったヤツは皆口封じに消されてきたんだ

そして俺は知ってしまった
それが目の前のヤツに知られてしまった
……ヤツが今したことは何か

これも簡単だ
俺を口封じに消そうとしてる……間違い無い



ヤバイ……!



俺が言うべき事はすぐに頭に出てきた


「今ここで俺をヤっても人に見られるだろ?」

ヤツの動きが止まった……
ハッとして俺を睨みつけてる

「すまねぇが、知っちまったんだ
カード自体は持ってねぇけど……
もう俺は理解してしまっている

だけどな、
俺は誰にも言うつもりはねぇよ
現にお前以外の誰にも一切話してなんかいない
『秘匿のルール』だったか?
それもちゃんとわきまえてるつもりだ……

だから、一度落ち着け」



「…………」
ヤツから殺気が消えたような気がした
落ち着いたのだろう

俺はハイウィスに近寄っていった
話を理解してくれたのか、
襲い掛かってくるような事はしなかった


――だから

代わりに俺がヤツの体を壁に押し付けてやった
ヤツはビックリしたような顔で俺を見た


……俺はヤツの顔にグッと近づき言ってやった

「リーガレットが消えた……!
俺の大事な家族も消えた……!
カードを持ってしまったせいでな!!

お前も持ってるんだろう……
話をさせろ!
俺の気が済むまでな!!」

ヤツはビビる様子無く俺を睨みつけて聞いていた



「……何かワケありみたいね」

「じゃなけりゃ俺は今ここにいねぇよ」


「わかったわ、私の家で話でもなんでもしましょう」


聞かなくちゃいけねーこと……搾り取ってやるからな
そう考えながら、俺はヤツに連れられて
ハイウィスの家に向かった




長くなりそうだからちょっと休憩
あと半分……(;_;)

再開




ハイウィスの家は案外俺の家からそう離れていない場所だった

そういえばハイウィスとは小学校から同じだった……
昔のことはあんまり覚えてねーな……
ガキの頃からコイツは暗い奴だったっけな

なんてことを考えつつヤツと並んで歩いた
周りから見たってピリピリしてるのが感じられるほど最悪なムード……

「どうぞ、あがって頂戴」

ヤツはハイウィスの家に着くなり家へ俺を迎え入れた

「大丈夫よ、家族は仕事に出てるし
今家には私1人だけだから」


男が女の家に2人きり……
ある意味最強のシチュエーションだけど
今日だけは下心0%だ


そのままハイウィスの部屋に案内された
部屋の中は……意外と殺風景だった
ティアやエルの部屋と比べても女の子らしさがあまり感じられない
こうなる事でも想定して片付けたのか?
何故?
いや、そもそも想定なんてしてなかっただろう


部屋に入ってからヤツは部屋の鍵を閉めた
……そろそろ本気でピンチだな俺



「……で」

少しの沈黙の後
先に口を開いたのはヤツだった

「あなたは何処まで知ってるの?」

「…………」

「あなたはさっき、
カードは持ってないけど理解してしまった
そう言ったわ……
何処まで理解したのか聞かせて頂戴」

少し思いとどまったが
言ったところでコイツの方が理解は深いだろうし
デメリットは無いだろうし、正直に言う事にした


「リリース……ギャザー……プッシュオン……ジャンクションシステム……
リセイント……エターナルギャザー……
呪文とか固有名詞とかはだいたい把握してる
だけどただ知ってるだけでサモンカード自体は見たことないし使ったことも無い

……こんなところだ」

ヤツは顔色一つ変えずに言及してきた

「どうやって知った?」


……これは……言えるか?
少し迷いが生じた……がここまで来た以上は腹を括るしかない

「先日失踪した俺の家族の日記に書いてあった」


「その日記は今……」
「今度はお前だ」

ヤツの言葉を遮った

「そもそも俺はお前に尋問する為に来たんだ
される為に来たんじゃない」

ハイウィスの顔が固まった

「それでもお前の質問に答えたのは
お前が俺にとっての唯一の手がかりだからだ
サモンカードに関わりがあるヤツが居るとは思わなかった

要するに……俺を信じてほしいってことだ
カードの事が流出する心配が無いから口にすることが出来た
そういう意味では……お前を信じてな」




しばらく沈黙が流れた

「フッ」
沈黙を破ったのはヤツだった
「なるほどな……」
一瞬……
ヤツがニヤリとしたのを見逃さなかった

「いいものを見せてやろう」
そう言ってヤツは立ち上がり机の引き出しの中から何か取り出した

小さくて……薄っぺらくて……名刺じゃあない……
……まさか

「サモンカードだ」

俺に投げ渡してきたそれはあまりにも小ぢんまりとしたものだった
背面に筆記体のようなロゴで「Summons Card」と……
間違い無く
正真正銘のサモンカードだった

表面にはマスコット人形みたいなヤツが腕を振ってるイラストが描いてあって
その上部には「ジョージ」という名前らしきものが書かれていた

「実際に見たのは初めてみたいね」

俺はカードを返した
こんなちっぽけなモノに……エルは振り回されたのか……

「昨日は私がプッシュオンだって見事に言い当ててくれたけど……
アレ絶対にカンでしょう?」

俺はうなずいた


「今の私……誰だかわかる?」

わかるわけねぇよ……

ヤツはまたニヤリと笑った
「あとのことはこの子に任せるわ
私よりよっぽどこの件には詳しいでしょうし……
この子ならきっとあなたに協力してくれるわ」

そう言ってチラチラさせたのはさっきのサモンカード
この子……ってまさか

「この子は『ジョルジュ長岡』って名前
『ジョルジュ』って呼んであげればいいわ」

ジョージじゃなくてジョルジュだったか……


そう思っているとヤツは『ジョルジュ』のカードをひたいに当てた

「それじゃあ後はヨロシクね」


……え?

ヨロシクって――





「トレード!」


ヤツがそう軽く叫んだ瞬間
目の前がカッと眩く光った

条件反射につむった目をゆっくり開けると
目の前にそのままの変わらない格好で
ハイウィスは座っていた


……今のは一体
っていうか『トレード』って何だ?

「ぷはーっ!」

不意にハイウィスが声をあげた

「おおっ、お前は噂のキアニス!」

……なんだこいつ!?
さっきとはうってかわって軽々しい雰囲気になりやがった
何だ、噂の精神療法……
……いや、違うな

おそらく……

「今のお前はジョルジュなのか?」

「おー、そうだぜ!
それよりお前ここに居るって事は
やっぱり知ってたって事だよな
しょうがない、この際開き直るしかねぇな!」

……どういうことだ?

「今のトレードって……まさか」

「さすがにトレードは知らなかったみたいだなぁ
この際だから教えてやろう
お前ギャザーって分かるよな?
その状態から『トレード』って呪文で
融合を維持したまま融合するセイントが
入れ替えできるっていうシステムなんだよなこれが」

……やっぱり奥が深いみたいだな
そう思った。
エルですらきっと全てを知り尽くしているわけじゃないんだ

……あれ?
今ハイウィスとギャザーしてるヤツが入れ替わったんだよな
……ってことは……


俺はハイウィスのそばに落ちているカードを拾い上げた
さっきの
『今の私……誰だかわかる?』
っていう言葉が少し気にかかったのは
多分俺が知ってるかもしれないヤツだと思ったからだ
まずありえないだろうと思ったが
――関係ない



俺は拾ったカードの表面を確認した

そこに書いてあった名前は――





『フェルシー・キルナリエ』



――全神経に衝撃が走った
フェルシー……って!
まさか……まさか……!
この顔……見覚えがある……間違い無い!

カードに刻印されていたのは、
新学期に担任の代理として数日だけ現れた臨時講師の女

俺は天地がひっくり返る様な錯覚を覚えた

…………





やっぱり恐ろしいと思った……サモンカード

ジョルジュからいろいろな事を聞いていくうちにどんどんその考えは確信になっていく

ハイウィスも……エルも……
そして俺も
みんな知らないうちにカードの世界の螺旋に巻き込まれてしまっていた


降りる事も出来たかもしれない……
だけどもう引き返すことなんて出来なくなってしまった……

リーガレット……
お前は何を考えているんだ?
一体何がしたいんだ?

全てを知ってしまった以上……
俺も中の世界に入っていくしかなくなってしまったらしい

そうか……
エルが日記の最後に書いていた旅のタイトルにしっくりくる
因果なものだな……



インサイド・ジャンクション



しょうがない……
俺も見届けてやるよ、追いかけてやるよ

エルを……
そしてリーガレットを!





とりあえずは今現在
大きな動きはまだない、という状況だが
ジョルジュが俺に一つだけ提案を持ち出してきた

『今すぐ日記を書くのをやめろ』

これだけは出来るだけ早いほうがいいらしい
どうも腑に落ちない事だが
ジョルジュ……あいつ軽々しいくせに
何故か説得力だけは感じるから不思議なんだよな……

とりあえず今日の事だけは書かせてほしいと頼んだ
突然決まったことになるが、
どうやら日記を書くのも今日で最後ってことらしい
よく考えたらたった3週間だったけど
ここまでよく書けたなぁって思う……

とりあえず、一区切りってことで

俺、お疲れ



そしてこれからの俺に健闘を祈る





- 俺の日記 -

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