インサイド・ジャンクション

第4週 潜在

8月4日(月) 代筆


何とか家に着いた。
僕は知らなくとも、彼女自身の身体がしっかり覚えているらしい。
彼女の身体に判断を委ねたまま彼女の部屋に直行した。

いかにも女の子の部屋といった感じだ……が、
所々モノがバラバラになっている形跡、
そしてそれを片付けている途中という感じの形跡、

机の引き出しの一番上にこの日記帳が入っていた。
彼女のプライバシーに関わることに罪悪感を感じつつも読ませてもらった。
7月13日以前の部分が破られた形跡……
何があったのか知る術はない、今ここにいる彼女は僕なのだから。

そう、
彼女は「やってしまった」らしい、
そうでもしないと今僕がこうやって証拠とでもなるような書き置きをしているわけが無い。

つい昨日の日記のところまで読んだ。
……嘘だ。
彼女は僕に聞くまでもなくその呪文を唱えてしまったらしい。
間違いなく、好奇心だろう。
その結果、彼女の意識はプッツリ切られ僕がここにいる。

……迂闊だった。
もっときつく警告しておくべきだった。
……いや。
「プッシュオン(融合寄生)」という呪文の存在自体、教えるべきではなかった!
セイント自身は「プッシュオン(融合寄生)」の解除をする術を持っていない。
かといって使用者の彼女は意識を失い、自己判断は出来ない。

……これだ、「プッシュオン(融合寄生)」の落とし穴。

とにかくこうなった以上、
僕が解除方法を探し出し、実行するしかなくなってしまった。
彼女の身体をこのまま動かしていても僕自身が都合が悪い。
彼女の生活環境は彼女にしか分からない、
それに僕は彼女の前に「リリース(解放)」された場所は丘陵だけなのだ。

さっきも夕食を彼女の家族と一緒に頂いた
……と言っても彼女の母親と兄らしき人と3人で、
カップラーメンとやらをテレビを見ながら。
母親はテレビに目を向けたままボーッとしていた、
兄は時々僕、いや彼女に話かけてきた。
「今日も山に行ってたのか?」
「買い物とかには行ってないのか?」
「少年VIP買ってきてくれたら嬉しかったけどな……」
あまり過ぎたことを言うと怪しまれると思って、適当な相槌を打っておいた。
受け答えが正しかったのかどうかは分からないが、誰も言及してこなかった。

……うん、
家族には彼女が彼女じゃなくなった事は言わなくてもいい、
知られないようにしよう。
解除方法は僕が見つけるしかない。

今、夕食と入浴を済ませこの日記を書いている。
ああ、やっぱ女の子の裸が見えるのは何とも言えない感じだけど
この際我慢するしかない。うん、仕方ない事だ。

とりあえず起こってしまったことは仕方ない。
解除方法を見出すまでの間、彼女のこの日記を借りて、
日々書きとめをしていこう、
元に戻った後で彼女にもちゃんと把握してもらえるように。

今日からしばらく、
この日記の書き手は「エレニー・キアニス」ではなく
……
「ルーク・エルデンス」が代筆させてもらう。


とりあえず書きとめをしておこう。

付加能力
「バニッシュ・クラスター」は
問題なく発動可能


8月5日(火) 記憶整理


目が覚めると、まだ夜明け前だった。
年代で考えると遥か昔……僕が生きていた頃を思い出す。
いや、そんなことは現代の彼女たちには関係の無い話だ。

だが、まぁいつか彼女には話してあげてもいいだろう。
僕がセイントとしてもう一度生きるようになる以前の事……
「夜明けの急襲物語」として
一部で語り継がれている伝説の登場人物の中に僕がいた事、
……まぁ、今は余計な話だ。
気にしないでおこう。

とりあえず、彼女は記憶が戻った後にこの日記を確認するだろう。
その日の為に、僕のここまで来た経緯というか、
君の手に何故か渡ってしまった理由がわかったので
ここに書くことで伝えておこうと思う。

僕の以前の持ち主は
「トレック・リーガレット」
だったはずだ、次に解放されて出てきたのが丘陵だった。
その目の前にいたのはトレックではなく、彼女「エレニー・キアニス」だった。
僕に背を向けたままサモンカードとは何ら関連の無い呪文をいろいろと叫んでいた彼女、
最初は僕も状況を把握できていなかったがこの日記を読んで理解できた。
トレックには息子が居たらしい、まぁいい歳してたし子供が居たっておかしくない。
……が、僕は彼に従っていた頃、息子の事が話題にも挙げられた事は無かった。
僕も彼に子供が居た事なんて知る由も無かったんだ。
彼女も彼の息子の姿は見ているはずだが残念ながら僕は見たことが無い。
恐らく、名前も聞いていないだろう。

「融合寄生」解除の糸口はここか?
遺産と称してその息子にはトレックのカードが相当な枚数、
そうでなくとも少なくとも複数枚は託されている事になっている。
今、その息子は何処で何をしている?
本部に行ったのだろうか。

僕が融合寄生解除のためにするべきことはだいたい把握できている。

1つはその息子に会う事
恐らくこれは不可能である。
顔も名前もわからない、住んでる場所も知らない。

もう1つは本部に行く事
実は僕自身、
本部の中か彼の任務先でしか解放されていなかった為、
本部の場所自体を知らない、
息子に会うよりも可能性は高いかもしれないが
こちらも今現在かなり難しい。

しかし、可能性はそこにある。
やらないわけにはいかないのだ。

とりあえず書きとめておく。

僕の付加能力
「バニッシュ・クラスター」は
自らの存在を一時的に抹消させる能力……
くだけて言えば「姿を消す能力」だ。
発動すると、僕は身体ごと「一枚裏の世界」に移る。
確かにそこに僕は居るのだが、
普通の人たちにはそこには居ないようにみえるし
その時は僕に触ることすら出来ない。

今日はこの能力を発動して街を色々と歩き回った。
まずは火葬場のふもとから丘陵にかけて歩いたし、
市街地も大まかに歩き回った。
誰にも本当の意味で姿を見られない、
この子にも安全だ……何が起こるとも思えないが。
トレックに従ってた頃に見たことのある風景も見えて
ちょっと久しぶりな感覚も覚えた。
今日一日いっぱい使ったけれどもまだまだ歩いてない場所はいっぱいある。
昔は結構僕も歩いたんだけどなぁ……
やっぱ彼女の体力が間に合わないか。

また明日も街を歩き回って色々把握していこうと思う。

それにしても……
女性は難しいものだな、
風呂とかトイレとか……まだ慣れそうに無い


8月6日(水) アイツ


今日も歩き回った。
が、しかしやはりと言うかなんと言うか……
ただ記憶しようと言う意思で街は歩くもんじゃないなと思った。
果てしないのだ。
僕が生きていた時代より建物は更に密集しているし、
歩けば歩くほど新しい発見がとめどなく流れ込んでくる。
……惰性で歩くのはやめよう。

ひとつ気になることがある。
日記の中に度々出てくる
「アイツ」
一体誰の事なんだろうと考えてしまう。
彼女はその「アイツ」に半端じゃない嫌悪感を抱いている。
それどころか殺意も見え隠れするようにこの日記からは感じ取れる。

一部モノがばら撒かれている彼女の部屋をかるく整理した。
そのついでに少し物色もさせてもらった。
アルバムからは彼女が友達や学校の先生らしき人と一緒に撮った写真が何枚もある。
日付からしてもかなり最近のものもある。
その様子からはとても今のエレニーが引きこもっているとは思えなかった。

恐らく、「アイツ」が原因だろう。
残念ながら先月上旬から昔の日記はバッサリ破り捨てられている。
彼女の中で開き直りというか立ち直りというか踏ん切りをつけたかったのだ。

……ん?
7月18日金曜日、
終業式の日に……

「アイツ」がこの家に直接来ている、
ご丁寧に通知簿と宿題を届けてくれたようだ。
これは善意の行動か、悪意の行動か……
だが、彼女はそれに嫌悪感を持っている。

……これを見て、
「アイツ」とは恐らく彼女の友人なんだろうと考えた。
ちゃんとした状態で届けてくれた事から、
少なからずこの友人に悪意は無い、
だが彼女は友人を拒んでいる。

何かが食い違っている。
一体、何が起こったんだ?
その時彼女の身に、一体何が起こったのだ?

……だがあまり考えなくてもいいだろう、
今最優先すべきことは融合寄生の解除。
「アイツ」とは恐らく関連の無い話。
今はやらなければいけない事の方を先決させて彼女を目覚めさせなければいけない。

最優先事項は本部を見つけること。
やはり、しらみつぶしに探していくしかないのか?

……骨が折れる。


8月7日(木) 登校不法侵入


町の散策のついでに、
彼女の通っている学校に足を運んでみた。
休みだがクラブ活動などがあるみたいで基本的に開放されている。
校舎内にも普通に入ることができた。

ただし、能力を発動した状態で。
今週に入ってからは外では彼女は誰の目にも止まっていない。
ぶっちゃけ、万引きだって容易にできる……が、やるつもりは毛頭ない。
自覚しない「寄生暴走」状態になりかねないからだ。
自身を制御できなくなったらそこでおしまいだ。
彼女にもその他にも迷惑がかかる、僕も不利になる。
そのあたりはしっかりボーダーラインを引いておかないといけない。
ある意味で既に越えているんだけどな。

とりあえず校舎内に入って、彼女の教室を探し出した。
「2年B組」
……うん、ここだ。
彼女の部屋からクラスは分かっている。
教室に入って彼女の席を探した。

……が、見つからなかった。

クラス名簿を教室で確認する。
そして机を数えた。

……なんてこった。

生徒数より、座席の数はひとつ少なかった。
何となく想像はついた。

彼女の席が片付けられている。

何だ? 不登校だと席が片付けられるものなのか?
その辺りがよく分からないが、これでは面倒だろう?
彼女が学校に来た時に席が無かったら困るんじゃないのか?


とりあえず、学校の物置らしき教室から机と椅子をワンセット
彼女の教室に運んでやった。
そして教室内の、机が並べられている中のぽっかり開いているスペース
恐らく彼女の席の場所であろう所に運んできた机と椅子を置いておいた。
うん、大丈夫。
これで新学期からも不便せずに済むだろう。

今日の散策の成果は特になし。
この広い街の中で本部を見つけようと思ってもそう簡単にはいかないのは当たり前だな。
しょうがない。

だけど一つ、
商店街を歩いているときに少し、悪寒がした。
辺りを見回しても同世代の人間は見当たらなかった。
何だろうか、あの嫌な気配は……

あれが彼女の言う「アイツ」なんだろうか……判断しかねる。


8月8日(金) 商店街


間違い無い……「アイツ」だ

昨日と同じ時間帯、昨日と同じ商店街を歩いている時に感じたあの不気味な嫌悪感……
様々な人々が行き交う中、そこに彼女と同世代の人間は見当たらない。
見えるのは殆ど大人ばかり。
だが、その人を見つけたときにこの身体が一瞬にして固まった。
僕は感覚だけで彼女を動かしているからわかる。
彼女の肉体がその人の近くに居るのに拒否反応を示したらしい。

僕は足早に商店街を抜け出していた。
すぐ近くの公園まで駆け足で飛び込み……
うずくまった彼女の肉体はもの凄く震えていた。

身体の底から何かに怯えている。
ああ、感じ取ってしまった。
学校じゃなくて商店街、不登校になる要因では無いわけじゃない。
恐らくこの時間帯、あの人は商店街に買い物に来ているんだろう。
分かってしまった。

あそこに居たあの人は……彼女の言う「アイツ」だ。

僕の考えとは裏腹に顔が目に見えて引きつった感じがした。
目尻が意思とは関係なくピクピクしてくる。
心の底の方からふつふつと沸いてくるあの感覚。


これは……確かな殺意


間違い無い、この殺意に比例して心拍数がどんどん上がってきている。
彼女の身体から……僕の精神に伝わる……確かな衝動……


危ない……
そう感じて足早に帰宅した。

彼女の部屋に飛び込み、布団に包まった。
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け
落ち着け落ち着け落ち着け……

晩御飯がろくに喉を通らなかった。
彼女の兄が気遣ってくれる……
「何か怖いものでも見たのか?」

僕は答えておいた、ただ一言

「アイツに会った」

僕が出した彼女の声は震えていた。
見てはいけないものを見てしまったかのように……
会ってはいけない人に会ってしまったかのように……
「アイツ」
彼女はずっと忘れようと努力してきたはずのものを、再び呼び起こしてしまった。

僕が悪いのか?
いや、でも僕は何も知らなかったし僕は僕なりに彼女を目覚めさせる為に行動を起こしていた。
まだ方法は見つかってないが……とんでもないことになってしまった。

彼女が破り捨てた、捨て去ろうとした記憶……日記……
僕は再びスタート地点に彼女を押し戻してしまったのだろうか……

彼女は何も言わない……
今、精神を一時放棄して眠りについている。
しかし、今日確かに彼女は僕の内側で自己主張をした。
本能的なものだったのか……ただの寝相のようなものなのか……

どちらにしても、間違いなく、
彼女は確かにこの身体の中に眠っている。


8月9日(土) 隆起


……これは回復の兆しなのか?

とんでもない頭痛……
沸き起こる憎悪……衝動……
めまいがする……

僕は今日の記憶が途切れ途切れになっていた。
特に夕方頃の記憶が全く無い、

……分からない

融合寄生状態、
未だにそれが続いているにもかかわらず、僕は記憶が抜け落ちている。

彼女が目覚めたのか?
この頭痛は……憎悪は……衝動は……

苦しい。




そうか、
エレニーか、エレニーなんだな?
君が自ら眠りから覚めたいと主張しているんだな?

それならどうぞ、早く目覚めてくれ。

そうすれば、僕は僕の居るべき場所に戻る事が出来るんだから……
君は本来の君に戻る事が出来るんだから……

というか、君は既に目覚めているんだろ?
僕の記憶が途切れたという事は、
その間は確実に君は目覚めているはずなんだ!

それなのに……
どうして僕はまだ君の身体に居るんだ?
どうして君はまた意識を閉じ込めてしまったんだ?

戻ってきてくれ!
そして僕をあるべき場所に戻してくれ!


…………。

夕方……
ちょうど昨日、「アイツ」を見た時間帯の記憶が飛んだのを最後に
僕の意識は抜け落ちる事は無かった。
少なくとも、自我を保っていた自覚はあった。

エレニー……
君は一体何をしているんだ?


8月10日(日) ヤバイ許さない



殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる 殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……

これは……マズイ、
僕の記憶が飛んでいる間にこんなことが……
エレニー、君なのか? 君が書いているのか?
この文の羅列……
まさか君が書いたとでも言うのか?
「アイツ」のことが許せないのか? 僕がアイツの事を思い出させてしまったからなのか?  そうなんだよな……ごめんな、本当にゴメン。 君は忘れようとしていたのに…… ショックを乗り越えようとしていたのに……
僕のせいだよな、 中途半端な精神状態のときに不意に「アイツ」に会ってしまったばっかりに…… でも駄目だ、殺すなんて考えちゃ駄目だ、 僕の生きていた時代は確かに混沌としていた、殺しもいっぱいあった。僕も殺した。 でも君は駄目だ、この現代では世界は平和に出来ている。 少なくとも君が生きているこの場所は平和だろう? そうだろう?  だから駄目なんだ、混沌を呼び覚ましてはいけない。 「殺してやる」なんて言葉は君には似合わない! 絶対似合わない!  すぐに消さないと……と思ったけど何で赤いボールペンで書いてるんだ!?
よりによってこの部分だけ……
消えないじゃないか……

許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……
消えるのはアイツ消えなきゃいけないのはアイツ消えて欲しいのはアイツ消えるべきなのはアイツ アイツが消えてあたしが残るアイツは残らずあたしは消えない 消えるのはアイツ消えなきゃいけないのはアイツ消えて欲しいのはアイツ消えるべきなのはアイツ アイツが消えてあたしが残るアイツは残らずあたしは消えない 消えるのはアイツ消えなきゃいけないのはアイツ消えて欲しいのはアイツ消えるべきなのはアイツ アイツが消えてあたしが残るアイツは残らずあたしは消えない……


言うな! そんなことを言うな!
君は「アイツ」にいったい何をされたっていうんだ!
君は「アイツ」にどんな仕打ちを受けたっていうんだ!
この社会は僕の生きていた時代より遥かに賢く丈夫に構築されている!  いや、そうじゃなくても君が人殺しなんかしてしまえば一生その罪を背負って生きなければならないんだぞ!  そう……君が人殺しなんかした時点で「アイツ」なんかより遥かに許されない存在になってしまうんだぞ!  今一度考え直せ! 殺しなんかで他人の人生を奪ってしまっては駄目だ!
一時の気の迷いで一生を棒に振る気か!?

アイツがあたしにしたことは確実に許すことの出来ない仕打ち、 アイツに罪悪感のかけらも存在し得ないしそれどころかアイツはあたしを絶望に追いやった。 アイツは死をもってその罪を償わなくてはならない、 あたしに罪は無い、紛れも無い冤罪だ間違い無い、 紛れも無い正当防衛だ間違い無い。 人権を踏みにじるアイツに人権を許してたまるか、 アイツにはあたしの受けたものと同程度のキズをつけなければならない。 だけど、それは死をもってしても到底届かないほどの深い罪…… エルデンスさん、あなたには知る由もないわ。 ……二度と思い出したくも無いの、誰にも話したくない。 アイツの存在を消して……記憶も消して……無かった事にするの。アイツは最初から居なかった……そういうことにしたいの。


エレニー、君だな? 君なんだな?
赤いボールペンでこの日記に追記してるのは……!
お願いだ、馬鹿な真似はやめてくれ、 何も殺さなくても……記憶を消すだけでいいじゃないか 今までやろうとしていた通り、アイツの事は忘れればいいじゃないか、 関わらなければ自然と忘れていける、アイツに会うのをやめればいい、アイツの居ないところで行動すればいい、 今まで通り生きていれば関わらなくて済むだろ?
……そうか、
「アイツ」は君の通っている学校の人間だったよな、 僕が見た「アイツ」はどう見ても君の友達という感じではなかった……
……そうか、そうなんだな
だから君は学校に行くことを拒み、頑なに外に出る事を嫌がったんだ。 でも、なんとかならないのか? 許すことは出来ないのか?
……わからない。
君が「アイツ」に何を言われたのかなんて知る由もない。 君は教えるつもりも毛頭無いんだろう……わからない。
解決方法は無いのか?

今日は外に出ずにずっと頭痛と悪寒と嫌悪と衝動と殺意と彼女と戦っていた。
……果たして戦っていたのか?
よく分からない。
今の僕は「融合寄生」、ある意味で「パラサイト(寄生暴走)」状態だ。彼女は眠っているはずなんだ、
意思決定などをする事は出来ない。今の肉体に関与する事など出来ない……ハズだ。
だが現状、こうやって彼女は日記に自己主張をしていた。
しかし、本当に彼女なのか?
もしこれが僕でも無く彼女でもなく……
……想像したくない、まずありえない。
間違い無い……エレニー自身だ。
だがそれを認めるとなると、サモンカードの法則が崩壊した事の証明にもなる……
僕がまだ知らない使い方でもあったのか? それとも例外が存在したのか?
僕自身……まだ体験した事の無い事態が今発生している事は事実……

……残念でした。
あたしはさっき外に出てきたのよ。
やっぱり夜中でもいい天気ね、星が綺麗だったんだよ。
夕方だったら多分無理、だって商店街って人がいっぱいいるじゃない?
やっぱりやるなら真夜中ね、人通りも少ないし誰が何をしたって全然目立たない……
どうしてやろうかしら……あたし全然やったことのないことだから想像するのも限界があるの。
エルデンスさん、
あなたは人殺しってしたことあるんでしょ? どういう風にやったら一番痛みを与えて殺す事が出来るの?
教えてよ。



お願いだ……目を覚ましてくれ
一体……どうなっているんだ?
わからない事が多すぎる、

でも、今わかっている事が一つある。



エレニー……君は危険だ。





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