インサイド・ジャンクション

第11週 襲撃

9月15日(月) 行方不明

キアニス家のことは学校側にも当然連絡が入っているに違いないだろうけど
ホームルームの時間にも担任の口からその話題が出ることは無かった

クラスの誰もが既にそれを知っていた
だけど誰も口にしようとはしなかった
いや……出来なかった

ラウスは行方不明者とされて警察に身柄を捜索される立場になってしまった

母親は極度の混乱状態になって耐えられなくなってしまったのだろう
あの時点でラウスが逃亡する理由は何も無いはずだが……
いや……逃亡かどうか自体も疑わしい
だが現実として俺に一切何も連絡もなく姿をくらませてしまった

ラウスと繋がっていることは一切他言していない。サイモン本部にさえ黙っている
ラウスが相談できる相手なんて他にいなかったはずだ

頼む……何か俺に教えてくれ
お前は今、一体……

9月16日(火) 葬儀

ラウスの母親の葬式は小ぢんまりとしたものだったらしい

授業をサボって学校を抜け出た奴が数名いたらしいが
おそらくその葬式に参列したんじゃないかと担任は話していた
俺も見に行きたかったのだけどフェルシーに扮したとしても
アンリ自体が授業を抜け出すことになるから参列できなかった

放課後までにクラスの話し声から拾った限りでは
葬式にラウスは現れなかったらしい
……事件性が高いのじゃないかという話していたらしい

実際のところ俺にも予想がつかない
本当に誰にも一切の連絡も無く消えてしまったんだ

頼む……!
無事なら……何か連絡をくれ!

9月17日(水) 本部

完全に行き詰まっていた……
そう感じた俺は久々にサイモン本部に足を運んでみた
サモンカードに関連する事件性の高い出来事に敏感な場所でもあるし
キアニス家の事件や不幸についても把握しているに違いない
ラウスやエレニーに関する情報が手に入ればラッキーだ
……だが俺とラウスが繋がっていることは当分秘密にしておくつもりだ

本部にはクローバル達は任務か何かで抜けていたが
幸いにもワンダと話をすることができた

一応アンリのクラスメイトとしての名目でラウスの情報の有無を尋ねてみた
本部では教師ブルーフェス殺害事件の犯人捜査に既に乗り出していたし
警察の家宅捜索の件で既にエレニーが容疑者だと割れている
更にそれで混乱した母親の自殺……
本部もそれらの出来事については把握していたようだが
依然としてエレニー・ラウス両者の行方を特定するには至っていないようだった

礼を言って帰ろうとすると
突然ワンダにサイモンの任務に参加してほしいと言われた
アンリのセイントとしての立場を保証してもらっている身として
あまり乗り気じゃ無かったが話だけ聞いてみた
任務内容は「犯罪組織"ガルガンチュア"の解体」
十数名で構成された組織というには小さい集団だが
トップにいるものも含めて数名がサモンカードユーザーの可能性が高いそうだ
そこで本部の実力者を固めて一気に本拠地に攻め込もうという作戦らしい
そこはやはり断ったが、何らかの形で協力はするかもしれないとだけ告げておいた

突撃実行は今週末の深夜
闇に紛れて一気に片をつけるつもりらしい

9月18日(木) 返還

昨夜ワンダから誘いを受けた例のサイモンの任務への協力について
しばらく部屋で考え話し合った結果……

フェルシーを本部に返すことを決めた
フェルシー自身もそれについては了承しているし
今まで担任のプッシュオンを解除させてからずっと
勝手に所有していただけのセイントだ
本来はサイモン本部にあるべきものなのだ

そういうことで夜にサイモンへ赴き
ちょうど鉢合わせたアリスタインにフェルシーのカードを手渡した
――そう
本来の所有者であるアリスタインに

彼もちょうど今週末の作戦に参加するらしく
カードを返してもらえたことを素直に喜んでいた
フェルシー自体が強力な付加能力を持ったセイントだ
俺と一緒にいてダラダラするよりよっぽど働いてくれるだろう


……その結果部屋にはアンリの身体に俺一人だけが取り残されてしまった
アンリの精神を生き返らせるための本部への協力だ
だが今度はこっちが丸腰のようなもの
とりあえずアンリの身の危険があってはならないから
俺がついていればいいものの……

問題はラウス……
この期に及んでまったく連絡をよこしてこない
まさか……アイツも場所を移して自殺なんて……無いよな?

9月19日(金) 心配癖

今日からフェルシー無しで俺がアンリとして学校に行くことになった
現状、アンリは相変わらずクラスで孤立していた
まぁ基本的に冷徹なフェルシーのことだ
あまり人と馴れ合わない性格だろうし
むしろ余計な言動や行動をしなかっただけマシと考えた方がいいだろう

クラスの様子として
トレックのせがれとラウスがぽっかりと抜けたままの教室だが
雰囲気的なものは相変わらずといった感じだ
やはりせがれやラウスの身を案じる様子もちらほら見受けられたが……

せがれは自ら身を闇の世界になげた
そしてラウスは……

ひとつの可能性が脳裏をよぎった
が、しかしすぐにその可能性は皆無だと判断した

ラウスがサイモン本部に転がり込んだという可能性
……やはりあり得ない
表向きは廃墟と化した社屋
場所の特定に至るわけが無いし
そもそもラウスはその存在を知るすべは今のところ持ち合わせていない
俺も彼にはサイモンの存在自体黙ったままである

では他のカードを扱う組織に転がり込んだとか
……ますますあり得ない
他の組織の場所だって特定できないだろうし
彼がそんな組織の存在があることすら想像できないはず
そもそも彼の日記を読み返してもわかるとおり
ラウスはサモンカードそのものに嫌悪感を示している
自発的に突き止めることなんてあり得ない

……しかしどうしても悪い方向悪い方向にばかり
考えが向かってしまう……
心配癖がたたってやがる

そういえば……

サイモンのガルガンチュアへの襲撃計画
ついに明日の深夜に迫ったようだ
俺は結果報告を待つだけの立場ではあるが……

心配事は絶えないな

9月20日(土) 前夜祭

今日もラウスからの連絡は一向に入る気配が無かった
時間的に考えても彼が直接家に来るとしたら
昼前から日没頃までの時間帯しか考えられない
アンリの両親にも来客の気配を悟られてはいけない
つまり両親が仕事に出かけている時間帯しか家への出入りはできないのだ

アンリの両親が帰ってきた後
俺はガルガンチュア襲撃準備を整えているであろうサイモンに
顔だけでも出そうかと思ったがやはりやめておく事にした

三日前にサイモンに顔を出した際に、
「一応念のために……」……と
ワンダから手渡された緊急連絡用の携帯電話
クローバルのヤツやワンダ、本部直通の番号は登録してあるが
まだ使用には至っていない

翌日俺が目覚めることには
ガルガンチュア襲撃の件については終了していることになるが……

明日目覚めたらまずサイモンに行こう、うん

フェルシーを預けた……というより返した身だ
せめてもの作戦報告は耳に入れておきたい

9月21日(日) 作戦報告

ちょっと……落ち着いた方がいいよな俺
とりあえず……聞いた順番にキチンと記していこう……

まず、サイモンの精鋭隊はガルガンチュアの本拠地に向かった
場所は街ふたつ越えた場所にあるスラム街
だが、向かった時には何故か既にガルガンチュアは壊滅状態にあったそうだ
紙一重で事が終わったときに着いたらしい
ガルガンチュアは死にたてホヤホヤの状態……
着く直前に本拠地の方向からすれ違いで
走り去って行った一台の車があったらしい
……恐らくその車に乗っていった奴らが
先にガルガンチュアを潰したようだが……

襲撃しようと思っていた標的が直前に潰されたことで
襲撃計画自体はそこで事なきを得たのだが……

問題はそこからであった
サイモン精鋭隊が引き返そうと準備を始めたその時
ヤツがその場所に姿を現した


"アイザック・スターレンス"!!


ヤツは突如サイモンに奇襲を仕掛けてきた
精鋭隊は応戦するもアイザックに一蹴される

絶対に忘れることは無い名前……
くそっ! アイツは……アイツは……!!


トレック・リーガレットを殺害した張本人!!

不幸というべきか幸いというべきか……アイツは
ガルガンチュアが既にサイモンの到着以前から潰れていた
という事実を知った途端にサイモンへの猛攻を止め
無傷のまま姿を消していった……


結果としてサイモン精鋭隊は負傷者を続出するだけに終わってしまった

負傷者……という言いかたではすまないかもしれない
現に俺に話を持ちかけてきたワンダは
今回のアイザックの急襲で片腕を失ってしまった
しかもそれもまだ幸運な方
死者だって出てしまったし俺が本部にいる時点で意識不明の重体者だって居た

幸い遠巻きにサポートする立場に居て無傷であった
アリスタインからこのような結果報告を受ける形になってしまったが
俺には解せない現実だった

ガルガンチュアを一足先に襲撃した者達といい
一足遅く急襲してきたアイザック……
話から察するにどうやらアイツもガルガンチュアに用があったようだ
しかし何でアイツまでそんな場所に……

考えても仕方ない
アリスタインにできるだけ吐かせてはみたものの
ガルガンチュアのそれ以上の情報やアイザックの情報などは出ることは無かった
当然といっちゃ当然だ

殺人鬼"アイザック・スターレンス"
実力者であったトレックでさえいとも簡単に殺害してしまうようなユーザー
以前からアイツの討伐は目論まれていたが
トレックが死んだ時点で一度アイザック討伐計画は頓挫したと聞いた
今回の襲撃で精鋭隊をもってしても傷ひとつつけられなかった
最高にヤバイサモンカードユーザーの一人である

それはともかくして……
アリスタインらからはそれらの情報が一切得られなかったものの
唯一の手がかり……になるかどうかは分からないが
ある情報を聞きだすことはできた

一足早くガルガンチュアを潰してすれ違いの末消えていった一台の車……
一瞬だったが目撃情報によれば
その車の後部座席に若い男女も乗っていたそうだ

若い男女……?
一瞬せがれ、ラウス、エレニーが思い浮かんだ

得体の知れない要素がまた一つ増えた

俺自身がそいつ等とやれと命令されたら
俺はいくらでもその渦中に飛び込んでも構わない
しかし
それは俺がセイントとして身を寄せるユーザーに命令されたときだけだ
今は……
アンリの心を取り戻すことが俺自身の最優先事項!!

頼む
もうこれ以上……
ゴタゴタを増やさないでくれ





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